~世界のお米事情と日本米の素晴らしさ~
日本人が毎日食べている主食のお米。今から約3,000年前の縄文時代後期に、大陸で稲作を行っていた集団が、稲作技術とともに日本に渡来し、稲作を広めていったと考えられております。狩猟文化から農耕文化へ、縄文時代から弥生時代への変化が訪れた瞬間でもあります。
この農耕文化の発展は日本だけのものではありません。当然世界の到る所でお米が生産されておりますが、そのお米の種類・食べ方・扱われ方は様々です。しかし、日本ほどお米の本質を追求し続けている国は、他には無いのではないでしょうか。それほど日本のお米は品質的に最上位に位置し、世界各国で高い評価を得ているからなのです。
しかし、日本のお米は世界的に見ると、少し独特な食べ物であり、白米は正にガラパゴス化した食べ物の一つでしかありません。今回は、世界の観点から見たお米事情を紹介しつつ、海外の人達から見た、日本米の評価・印象について取り上げて見たいと思います。
日本のお米の種類とジャポニカ米・インディカ米
日本で圧倒的に有名な品種は「コシヒカリ」ですが、コシヒカリ以外にも様々な銘柄のお米があります。「あきたこまち」「ひとめぼれ」「つや姫」等、名前くらいは聞いた事があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それらを全て含めると、日本のお米の銘柄は実に800種類以上も存在します。毎年、全国どこかの都道府県で品種改良された新ブランド米が発表され市場に登場します。新登場したお米は、食味や作付けの観点から次世代へ繋がる可能性を模索され、期待を込められて誕生しているのです。
日本のお米は国際的に見ると生産コストが高い為、輸出するのが非常に難しい農産物です。新ブランド米がコストを低く抑える事が出来、かつ高収量を約束される様な品種であれば、日本のお米がたくさん輸出される日も近いかもしれません。
この800種類以上の品種は世界的には「ジャポニカ米」と位置付けられております。お米の正体は「イネ科イネ属」の植物の種子であり、トウモロコシ・コムギとともに、世界三大穀物の一つとなっております。
世界中でイネ科イネ属に属しているものは20数種類が知られていますが、そのほとんどは野生種で、栽培されているのは、「アフリカイネ」と「アジアイネ」の2種類です。「アフリカイネ」はアフリカの西部でごくわずかに生産されているだけなので、現在栽培されているほとんどのイネは、「アジアイネ」となっております。
この「アジアイネ」は「ジャポニカ種」「インディカ種」「ジャバニカ種」の3種類に分けられており、日本で生産されているのがアジアイネのジャポニカ種にあたるので、ジャポニカ米の分類分けがされているのです。
ジャポニカ米は一般的に「短粒種」とされ、だ円形に近い形状で、炊くと粘りとツヤが出るという特徴があります。「ジャポニカ」という語源は欧米人の間において、「日本の」という意味を表しますが、ここでは「日本由来の」とか「日本だけ」と言う限定的な意味合いは無く、世界的にジャポニカ米は生産されております。日本以外では中国・北朝鮮・韓国・台湾・ベトナム・オーストラリア等があります。
日本のジャポニカ米の総生産量は年間約800万トンでありますが、世界のお米の生産量で見ると、約10位前後にあたります。世界生産量一位の国は中国であり、約1億5000万トンもありますが、ジャポニカ米の割合は30%程度となっており、70%はインディカ種のインディカ米です。
世界的に見るとお米の総生産量の80%はインディカ米となっておりますので、20%程度しかないジャポニカ米は、ある意味マイナー食と言っても過言ではありません。
年間の総生産量が約800万トンである日本ですが、年間の総消費量もだいたい同じくらいの800万トン。作った量を丸々消費する形となっているので、やっぱり日本人はたくさんお米を食べていると思いがちですが、この量は年々減ってきており、日本人一人が1日に食べるお米の消費量は、おにぎり3個分程度との事です。お米以外に小麦(パン・パスタ)や乳製品・肉類の消費量が増えているのが主な原因と言われております。
世界のお米の80%のインディカ米ってどんなお米?
国民一人が1日におにぎり3個程度しかお米を食べない国、日本でありますが、世界のランキングで言うと50位程度に位置し、「お米の国、日本」なんていうのは、ある意味幻想に近いものなのかと思えてしまいます。近隣の国で言えば、韓国は15位、中国は17位、インドは22位となっており、総生産量一位の中国が17位と言う事を鑑みると、総生産量と人口との間には、ぼんやりとした相関関係が見えてきそうです。
ランキング1位に輝いている国はバングラデシュであり、毎日おにぎり10個分程の量を食べている事になります。2位ラオス・3位カンボジア・4位ベトナム・・・と、ランキングの上位をほぼ東南アジアが独占しており、これにはお米の食べ方・扱われ方が多いに関係しております。
これらの国で食べられているお米は主にインディカ米であり、「短粒種」であるジャポニカ米と比べて、粒が長い「長粒種」が主であり、アミロース含有量が高くて粘り気が少ないのが特徴として挙げられます。
粘り気が少なくて、独特の香りを持ち合わせているので、ピラフやチャーハンのように、副食材と混ぜ合わせて調理したり、カレーライスやガンボのような、スパイスを利かせた濃厚な汁料理とともに供されたり、タイのガパオライスのように、濃い味付けの挽肉とともに供されたりしています。いずれも皿で混ぜて食べられている場合がほとんどであり、日本のお米の様に「白米」単品のみで食べられる事はほとんどありません。
元々、インディカ米は寒さに弱い為、高温多湿な地域での栽培が適しており、インド・東南アジア・中国南部などが主な産地となっております。ヨーロッパ各地でお米の栽培が一般化しなかったのは、この気候による影響が大きくて、その為、寒さに強いジャガイモ・麦がヨーロッパ各地で一般化したのには、ある意味合点が付きます。ヨーロッパでもスペイン・イタリアは主要な稲作国ですが、ヨーロッパの年間平均生産量は310万トンですので、日本の総生産量の半分も無く、あまり多くはありません。栽培されているお米もインディカ米がメインであり、有名な料理として「リゾット」「パエリア」「ピラフ」等、日本でも馴染み深い名前が見えますが、ここでも「味付けされたお米料理」として提供されています。
こうして見ると、世界の主流のインディカ米は、主に料理の一つとして提供される事がほとんどであり、味付けされた食べ物であるという事。それぞれが独自の進化を遂げており、大変美味しい料理の一つである事は間違いありません。
あくまでも仮説の域での記述となるのですが、日本の様に「豊富なキレイな水」に恵まれた国は世界でも稀な為、水質一つで出来上がりの味に大きく左右される「炊飯」という文化を、他の国では紡ぐ事が難しかったのではないかと思います。
「短粒種」と「長粒種」の中間、「中粒種」
アジアイネの「ジャポニカ米」と「インディカ米」との間には、見た目や食感に大きな違いがあります。大きく分けて、小さいか細長いか、粘りが強いかあっさりしているかの2つに分けられます。しかし、この両方の特徴を上手に併せ持った新品種が、1948年アメリカのカリフォルニア州で開発されました。「カルローズ」という品種なのですが、カリフォルニアで開発されたので、日本では「カリフォルニア米」として有名です。このカルローズは短粒種と長粒種との中間に位置する為、「中粒種」として広く知られており、カリフォルニア州で栽培されるお米の80%はカルローズが占めています。
このカルローズは世界40カ国以上に輸出されており、日本でも外食産業で、一部ブレンド米として提供されたりもしています。インディカ米の日本での不評(1993年のタイ米騒動)を教訓として持っている為、それ以降日本に輸入されるお米の、味に対する品質は非常に高い物が認められています。知らず知らずの内に、外食先でカルローズを食べていたなんて事もあるかもしれません。
因みにこのカルローズ、日本でも手に入れる事が可能です。ネット通販等でも気軽に購入できますが、少し値段が高いのがネックです。しかし、身近なアメリカ食料品店の「コストコ」に行けば、安価なカルローズ米を手に入れる事が出来るので、気になった方は一度探して見て下さい。炊飯すると少し柔らかめの出来上がりになりますが、コストパフォーマンスは優れているので、損はしないと思います。
日本のお米 in the world
年間に生産される日本の農産物の中で、食糧自給率がダントツにトップの数字を叩き出しているのがお米です。およそ98%と言われていますが、2%は主に加工用や飼料用として輸入されているのであって、政府の備蓄米等を含めて計算すると、軽く100%を超える数字が出ております。お米の次に高いのが野菜ですが73%程度。たまねぎ・かぼちゃ・にんじん・ねぎ・ごぼうの5品目で輸入量の70%程度を占めており、冷凍野菜や乾燥野菜、加工品野菜等で口にする事が多いと思います。
自給率1位のお米は、そのまま国内消費される事がほとんどであるのに対し、自給率2位の野菜は、やはりどこからか輸入に頼らざるを得ないのが、日本の食料事情の悲しい現状として浮き彫りになっております。
自給率が100%を超えるお米は、日本の輸出品目の一つとして常に注目を浴びていましたが、先ほども述べた通り、生産コストと採算性の関係が払拭出来ずに、遅々として進んでいきませんでした。
しかし、2013年にユネスコの無形文化遺産に「和食:日本人の伝統的な食文化」が登録されてから海外での日本食ブームが到来し、その人気は今も後を立ちません。日本食が広まりつつある中で、日本食に合う本来の「日本のお米」も脚光を浴びる事となりましたので、徐々にではありますが、日本産のお米の輸出は増加しています。
まだまだ増加量は微量ですが、ロシアの小売店では「いなりずし」の試食商談会が開かれたり、フィンランドのお寿司販売店で、日本のお米を使ったお寿司が提供されたりと、世界各地で日本のお米が紹介されるに到っています。
海外の人からすると、お米は「味付けして食べる物」という概念が強い為、なかなか「白米」単体で口にする事は難しいと思いますが、伝統的な和食以外でも身近な「カツ丼」や「親子丼」、「カレーライス」等は海外の人達には大人気です。
日本のお米は冷めても美味しく、甘みのあるふっくらとしたつやと特別な食感を併せ持っています。インディカ米やカルローズがダメと言う訳ではなく、日本のジャポニカ米の特徴をしっかりと理解して頂いた上で、海外の人達が日本のお米に対してもっともっと興味を持ってくれたら良いなと感じます。
インドのカレーライスと日本のカレーライスは明らかに違いますが、美味しい食べ物として受け入れられている事に違いはないのですから・・・そう遠くない将来、日本人として日本のお米に誇りを持てる日が来るものだと思い込みたいものです。
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