~お米に悪さをする者たちと、それらを成敗してくれる者たち~

田んぼに生息する生き物達

子供の時には、カエルやトカゲなどの生き物を平気でペタペタ触っていたのに、大人になると何故か拒否反応が出て、まったく触れなくなるのは何故でしょうか?

恐らく子供は知識に乏しい面が多々あるので、半ば怖い者知らずの感覚で、なんでも挑戦出来るからだと思います。3歳くらいの子供が、棒状の物を振り回してゴキブリを追い掛け回す映像なんかは、驚きを通り越して尊敬に値します。

しかし、大人になっても全然平気な人や環境に慣れてしまって、ある程度なら問題無く触れるよって人も大勢存在します。

会社の周りには、特別栽培米の田んぼを中心に、水辺を生活拠点とする生き物達にとっては安全な場所がたくさんあります。田んぼの水生昆虫くらいなら、全然問題無く触れるよって人が会社には何人もいるのは、そんな環境に慣れてしまった賜物でしょうか。

今回の記事では、そんな会社の周りを賑やかにしてくれている田んぼの生き物達を紹介したいと思います。人に直接大きな害を与える者はあまりいませんので、気軽に読んでみて、少しだけでも慣れて頂ければと思います。

お米に悪さをする者たち

お米作りに限らず、食べ物を作っている生産者にとって、必ずと言って良い程毎回頭を悩まされるのが、害虫による被害です。水耕栽培の様な水と肥料で植物を育てる方法では、あまり害を気にする必要は無いのかもしれませんが、自然を相手にする米・野菜・果物等では、害虫による対策を講じる必要があります。お米作りによる害虫とは、どの様なものがいるのか少し見てみたいと思います。

<ウンカ・ヨコバイ>

 ウンカは成虫も幼虫も、イネの葉や茎にストロー状の口針を刺して、養分を吸い取ります。

ヨコバイはセミを小さくした様な形をしており、同じく茎から汁を吸い取ります。養分を吸い取られたイネは、まともに大きく育つ事は無く、生育不良によりほとんどが「くず米」認定を受けてしまいます。最悪、まったく刈り取りが出来ず、収穫を諦めなければならない場合もあります。江戸時代に起きた「享保の大飢饉」「天保の大飢饉」は、ウンカが原因であるとも言われています。

<イナゴ>

 海外の映像ニュース等で、イナゴやバッタの大量発生を見た事はありますが、近年の日本では、農薬の使用による効果的な駆除のおかげで、農作物に大打撃を与える事は少なくなりました。しかし、十数年前までは、イナゴの被害は「稲作にとって最大・最強の天敵」と言われていました。ウイルス等の病気を媒介しませんが、直接的にイネの葉を食べる食害の影響は大きく、大幅に収穫減に繋がった事例が多々報告されています。

<メイガ・アワヨトウ>

 主に幼虫の時期に、茎の内部に入って中身を食べてしまうので、芯が枯れてしまったり、褐色に変色して育たなくなってしまいます。ウンカやイナゴの様な大被害をもたらす訳ではありませんが、イネの栽培期とメイガの発生周期はとても密接に繋がっており、身近な被害としては一番大きいと言えるかもしれません。

<カメムシ>

 イネの葉や茎、穂(籾)から養分を吸い取りますが、穂から吸い取られたお米は、黒い点が付いたお米になってしまう(斑点米)為、品質が落ちる要因を引き起こします。

畦際の雑草を除草する事で、水田に近寄る手段を無くし防除する事が出来るので、他と比べると比較的対策の講じやすい害虫だと言えます。

 身の危険を感じると悪臭を放つので、全国各地で嫌われており、色々な方言で呼ばれています。(福井県嶺北ではヘクサンボ等)

<その他>

 害虫以外にも、イネに被害をもたらす者としスズメやイノシシがいます。

スズメは愛くるしい見た目とは裏腹に、昔からお米を食べる害鳥とされております。身近な可愛い鳥なので、海外から日本に観光に来た人達には大人気です。

今ではあまり見かけなくなりましたが、田んぼの中に設置された「カカシ」は、スズメ対策の為に考案されたと言われております。

イノシシは田んぼの中に入って、田んぼをグチャグチャに荒らす事で被害をもたらします。イノシシの習性として、田んぼの泥を利用して泥浴びをする事で、背中に付いたダニやノミ等の寄生虫を落としているのです。稲穂が黄色くなった時期には、お米を食べる事も報告されています。

スズメもイノシシも、被害にあった田んぼは生産減に繋がりますので、カカシや進入防止柵などで対応する事が必要です。

お米を守ってくれる正義の味方たち

 お米に悪さをする害虫を取り上げましたが、この害虫を退治してくれる正義の味方が存在します。大体がこの害虫を食べてくれる生き物なのですが、体が大きくて、見た目が少しグロテスクであったりするので、冒頭で触れた拒否反応を示される生き物達が多いです。少し紹介いたしますが、正義の味方なので、寛容な気持ちで見守ってあげて欲しいと思います。

<カエル>

 田んぼで生息する生き物の代表格がカエル。カエルは世界の到る所に分布しており、そのほとんどが水辺で暮らしています。両生類なので、水陸両用の生き物ですが、水の中だけで暮らす事はほとんどありません。子供の時はオタマジャクシと呼ばれ、淡水の中だけでえら呼吸をして生活していますが、成長してカエルになると、肺呼吸(皮膚呼吸)に変化するからです。

 カエルはそのほとんどが肉食性です。長い舌をペロっと伸ばして、大きな口で一飲みにして様々な昆虫を捕食しています。動いている物を捕まえて食べる習性があるので、死んだものや動かないものは基本食べません。

 田んぼに生息するカエルは、お米に付く悪いムシ(ガガンボ・アブラムシ・ウンカ)等を捕食してくれます。農家の天敵の代表格でもあるカメムシも、一応食べてくれるそうですが、カメムシは独特の臭いを放つので、好んで食べているかどうかはわかりません。

カエルは世界中に分布しているので種類がとても多く、世界的に見れば6500種類ものカエルが存在します。日本では約40種類くらいが確認されていますが大きさは様々で、日本に生息している最大種は「ニホンヒキガエル」で15cmくらいあるそうです。因みに世界最大種は、「ゴライアスガエル」といい、30cm以上体重が3.3kgもあるそうです。ちょっとした小型犬くらいの大きさですね。

意外かもしれませんが、馴染みのある「ヒキガエル」や「ニホンアマガエル」は、皮膚の表面から弱い毒を分泌します。カエルを素手で触った手で目をこすったり、傷口に触れたりすると、目が腫れたり傷が悪化したりする可能性がありますので、小さいお子さんがカエルをペタペタ触ったりした後は、しっかり手を洗って消毒する事が必要です。

<クモ>

 田植えを終え、ある程度稲が生長して背丈が伸びてくると、どこからやってきたのか、田んぼにはクモがたくさん生息し始めます。クモの種類にも「ミズグモ」という、世界で唯一水中生活をするクモもいますが、田んぼに生息するクモは、「コガネグモ」「ハシリグモ」「オニグモ」「アシナガグモ」等、一般的にどこにでも存在するクモ達です。あまり大きな個体は田んぼでは見かけませんが、彼らは一様に稲の害虫を駆除してくれます。当然カメムシも、クモの巣に引っかかって、動けなくされてから食べられちゃいます。農薬を使わずに栽培している田んぼでは、田んぼ一面に花が咲いたかの様に、白いクモの糸が架かる事があります。たくさんクモの巣が架かっていると、朝日に照らされたクモの糸はキラキラと反射して幻想的な光景を見る事が出来ます。クモは農薬に弱い生き物なので、その様な田んぼを見かけた時は、農薬を使っていない田んぼだと判断しても差し支えありません。

<トンボ>

トンボはキレイな水辺に卵を産みます。なので、田んぼの中からトンボが生まれ出る訳ではありません。アカトンボ等は卵のまま越冬し、暖かくなると卵から孵化して「ヤゴ」と呼ばれる幼虫になります。ヤゴの間は水中のミジンコやボウフラ等を食べてくれます(強いヤゴは、メダカやオタマジャクシも食べます)が、成長してトンボの姿になると自由に飛び回り、空中の害虫(ハエ・蛾・蚊など)を捕食してくれます。この捕食される害虫が田んぼに多いので、トンボは田んぼにとっては正義の味方になってくれているのです。

日本で最大のトンボは「オニヤンマ」で、7~8cm程あります。アカトンボが3~4cm程なので、オニヤンマにイキナリ出くわすと、少しキモチ悪いかも・・・オニヤンマはセミやアブといった大型昆虫も捕食し、驚きなのがスズメバチをも攻撃するとの事です。デッカイ緑色の目が特徴ですので、見かけたら怖がらずに、何となく応援してあげましょう。

<アメンボ>

小さな水溜まり等でも見かける事が出来るアメンボ。アメンボは実はカメムシの仲間であり、外的から身を守る為に匂いを放つのですが、その匂いがアメの様な甘い匂いがする事から、アメンボの名前の由来になっているそうです。アメンボは水面に落ちて、上手に動けない虫を食べてくれます。水面をスイスイと自在に動き回る事が出来るので、泳ぎの得意でない幼虫等は、アメンボの餌食となってしまいます。この餌食になる幼虫には、ウンカの幼虫等がいる事から、アメンボは田んぼを守る益虫の一つとされております。

因みに、カメムシの仲間であるので、意外にもアメンボは飛ぶ事が出来ます。雨が降った後にいきなり登場したりするのは、どこからともなく飛んでやってくるからなのです。

<ツバメ>

ツバメは夏の時期を日本で過ごす「夏鳥」といわれる渡り鳥です。ツバメは暖かくなるにつれて東南アジアなどから日本各地に飛来し、北上しながら各地で子育てをします。家の軒下や納屋など、必ず屋根のある所に巣を作りますが、この巣を作る時に材料となるのが、泥やワラ・枯れた草等です。これらは田んぼや水辺で容易に手に入るので、ツバメと田んぼは縁の深い関係にあるのです。ツバメの雛のエサとなるのは、ウンカやハエ、蛾等です。これらの小さな昆虫も田んぼから調達出来る為、ツバメは田んぼにとって益鳥と言われております。

タナカ農産グループの納屋(コンバインやトラクターを収納している小屋)には、毎年ツバメが飛来し、コンバインやトラクター等がフンで汚れてしまいます。田んぼの為に頑張ってくれているので、毎年気にせず巣作りの場を提供しています。

<その他>

まだまだ沢山田んぼの味方はいますが、「カマキリ」や「ゲンゴロウ」、場合によっては「スズメ」も正義の味方に変わってくれます。(虫を食べてくれます)

アイガモ農法を行っている生産者にとっては、「アイガモ」も当然、田んぼを守ってくれる心強い味方です。田んぼには多くの食物連鎖が形成されており、それらが正しく機能して、美味しいお米が誕生していると言えそうです。

あとがき

田んぼ(稲)が生きている以上、それらを主食として生きる生き物がいるのは仕方の無い事です。最終的には人間も稲を捕食している事になるので、人間が一番やっかいな存在なのかもしれません。稲が被害を受けるものとして、毎年必然的に被害にあうのは、メイガ・カメムシが挙げられますが、致命的な被害には到りません。ウンカやイナゴ等の被害は、地域性も出てくるので、最悪被害にあった場合は、農薬の使用も検討する必要があるのかもしれません。

タナカ農産グループの田んぼでは、除草剤以外の農薬(殺虫剤・殺菌剤)を一切使用していない為、害虫(害鳥)も益虫(益鳥)も、多様な関係性を築く事が出来、それらが密接に深く関わりあって田んぼが形成されています。この農法をグループ設立以来ずっと継続してきたからこそ、今を生きる生き物達が脈々と受け継がれてきたのであります。今年も来年も、ずっとずっと先の未来でも、水田から溢れ出る生命のエネルギーを絶やす事無く、感じ取る事が出来たらこれ幸いと思います。