「お米1合はどのくらい?」
と聞かれたとき、何気なく使っている計量カップ1杯分を思い浮かべる方も多いでしょう。
あるいは、米びつの「1合ボタン」で取り出す量を思い出す方もいるかもしれません。
でも、実はこの「1合」という単位には、昔の日本人の暮らしや文化がぎゅっと詰まっているんです。今回は、そんな「1合」のお米にまつわる歴史や日本文化をのぞいてみましょう。
そもそもお米「1合」とはどのくらい?
お米1合は、体積で180ml、重さにすると約150gの量です。このお米を炊くと約2倍から2.5倍に膨らむので、茶碗で2杯分くらいのご飯になります。私たちが毎日の食卓で食べる1人前の量が、ちょうどこの「1合」になるのです。
この「1合」という単位は、「升(しょう)」「斗(と)」「石(こく)」といった、米の取引や収穫量を計る他の単位とともに、日本の農業や生活において大切な基準として機能してきました。
これらの単位は年貢の基準にも使われていたんですよ。
宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」にも登場する「玄米4合」
宮沢賢治の詩「雨ニモ負ケズ」に
「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲ食ベ」
という印象的な一節があります。
玄米4合は、現代の茶碗で言うとおよそ8杯分に相当します。
少し多いと感じますが、賢治がこの量を書いた背景には、当時の日本人が労働に必要なエネルギーをお米から摂っていたことが関係しています。
特に農民や労働者にとっては、お米は貴重なエネルギー源でした。
また、今ほど食品が豊富に手に入らなかった時代、米からの栄養がとても重要だったのです。
賢治の詩にある「玄米4合」からは、お米の持つエネルギーと生活におけるその大切さを、当時の人々が感じ取っていたことがわかります。
玄米以外は「味噌ト少シノ野菜」だからね
日本の米文化に根付く「1合」「1升」「1斗」「1石」という単位
お米の量を表す単位には、さまざまな種類があります。
「1合」「1升」「1斗」「1石」といった単位が、米の収穫量や取引量を計るために使われてきました。
- 1合(いちごう):180ml(体積)または150g(重さ)。炊くと茶碗2杯分になります。
- 1升(いっしょう):1合の10倍、1.8ℓ、約1.5kgの重さ。家庭用のお米として便利なサイズです。
- 1斗(いっと):1升の10倍で18ℓ、約15kg。農家で収穫量の目安として使われました。
- 1石(いっこく):1斗の10倍で180ℓ、約150kg。昔の日本では、成人1人が1年間に必要なお米の量がこの「1石」とされていました。
江戸時代や戦国時代には「1万石の領地」などといった表現がありましたが、これはその土地から1年に1万石のお米が収穫できるということ。
米の収穫量が多い土地ほど、その領地の経済力も高く、武将にとって重要な資産だったのです。
このように、日本の米の単位は単なる量の測定以上に、社会や生活のなかで大きな意味を持っていたんですね。
なお、「加賀百万石」で有名な加賀藩(現在の石川県と富山県にまたがる領地)は、100万石ものお米の穫れ高を誇り、どの藩よりも富裕でした。
タナカ農産のある福井藩(越前藩/北ノ庄藩)は68万石だよ
時代によって変わるけど、かなり大きな藩だったんだ
現代でも残る「升」「斗」という単位
今では米の量もグラムやキログラムで表記されることが多いですが、「升」や「斗」という単位はまだ残っています。
たとえば、「一升瓶」といえば、1升(1800ml)入りの日本酒やしょうゆを思い浮かべる方もいるでしょう。
また、「一斗缶」には18リットルの容量があり、灯油やペンキなどで見たことがあるかもしれません。
今でも、日本の生活の中で昔ながらの単位が生き続けているのは、なんだかほっとする部分もありますね。
昔の人が1日に食べた米の量を計算してみる
「1石」は成人1人が1年間で食べる米の量とされていました。
一般的なお風呂場の浴槽に入れる水の量くらいでイメージしてください。
1合×10=1升
1升×10=1斗
1斗×10=1石、なので、1石は1合の1000倍です。
昔は月の満ち欠けに応じて暦を計測する「太陰暦」が用いられ、1年はおよそ354日でした。
1000÷354=2.824858757……
1日にだいたい2.8合のお米を食べていた計算になります。
1合のお米は炊きあがったご飯にして約330グラムになるので、
(ただし炊く際のお水の量などで変化します)
2.824858757……×330=932.2033894……
1日あたり932グラムほどのご飯になります。
お茶わん1杯をごはん150グラムで計算すると、
932.2033894……÷150=6.214689262……
中盛のお茶わんで約6杯分が昔の人の1日のご飯の量です。
毎日たくさんのお米を食べていたことがわかります。
賢治の「玄米4合」よりは少ないですが、武士や農民、商人など、職業や体格によって多少の違いがあったのでしょう。
田んぼの面積と収穫量:「1反」との関係
お米を育てる田んぼの広さも、昔ながらの単位「1反(いったん)」で表されます。
1反は約300坪、または991平方メートルです。
この1反の田んぼから得られるお米の量は、昔は通常1〜2石(150〜300kg)。つまり、1反の田んぼで1年間に必要な1人分のお米が収穫できたということですね。
農家の規模や米の取引も、このような単位を基に決められてきました。
現代では農業技術の発展により、1反あたりの収穫量は増えており、全国平均で420kg(3石)ほどです。平均して3〜5石のお米を収穫できる地域もあります。
田んぼの広さについてはここで詳しく書いてるよ
現代に残る「1合」という文化
今ではお米をキログラムで買うことがほとんどで、「1合」という単位に馴染みが薄くなってきました。
しかし、炊飯器には「1合」の計量カップが付き、料理で使うときに便利な単位として残っています。
また、「1反」や「1俵」といった単位も農業の現場で今なお使われているのです。
近年、米離れが進む一方で、日本の米文化の価値が見直されています。
「地産地消」や地域特産のお米の人気も高まっているのは、昔ながらの文化や栄養価の高いお米が再評価されているからです。
こうして、「1合」という小さな単位に込められた意味を知ると、私たちが日々口にするご飯1杯がより味わい深いものに感じられますね。
まとめ:1合が紡ぐ日本の米文化と私たちの生活
左は一合枡(いちごうます)
昔はこれでお米をはかっていたんだね
「1合」という単位から、日本人の米文化や暮らしの歴史が見えてきます。
宮沢賢治の「玄米4合」も、昔の人々が日々の暮らしを支えるために必要としたエネルギーを象徴しています。
また、「1石」や「1反」といった単位も、米が日本人の生活にとってどれほど大切なものだったかを教えてくれます。
毎日の食卓に並ぶご飯1杯。そこには日本の文化や先祖たちの物語がたくさん詰まっています。
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